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会員のコラム('03.7.3)
第8回「ソニーコミュニケーションネットワーク事件判決について」 
弁護士 寺中 良樹(てらなか よしき)

 大阪弁護士会の寺中です。
私も、電子研に所属しておりまして、今回の担当は私でしたので、前回に引き続き、電問研での研究内容について本コラムで発表させていただきます。
 

 ソニーコミュニケーションネットワーク(以下、SCN)事件判決
 (東京地方裁判所 平成15年4月24日判決)

 平成15年4月24日、プロバイダー責任制限法に基づく開示請求に対して、被告SCNが「経由プロバイダー」(判決では、「発信者が特定電気通信設備の記録媒体に情報を記録する際にインターネット接続サービスを提供したプロバイダ」と定義しています)であることを理由に、請求を棄却した判決がありました。
 「経由プロバイダー」に対する請求の可否に関する判決としてはおそらく初めてであり、またその結論は、今後、Web上の名誉毀損による損害の救済実務に大きな影響を与えると思われます。

 インターネット掲示板に対する書き込みとプロバイダー責任制限法

 インターネット掲示板は、わずかな費用で誰でも簡単に開設できる(一般人でも、プロバイダーと契約し、インターネット上で無料でダウンロードできるソフトをアップロードするだけで開設できます)ため、インターネット上の至る所に存在しています。これに伴って、掲示板による名誉毀損的書き込みによる問題も大きくなってきました。そこでの問題点は、インターネットの匿名性、つまりどこの誰が書き込みをしたかわからないということです。
 そこで、プロバイダー責任制限法(正式には、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」といいます)4条1項は、特定の場合に、プロバイダー等(「開示関係役務提供者」)に対し、プロバイダー等が保有している書き込み等をした者の情報の開示を求めることができることを規定しました。本来、電気通信事業者は、電気通信事業法により、保有する契約者情報を漏らしてはならないことになっていますが、本規定はその例外を定めるものです。

 本件における問題点

 さて本件において問題となったのは、発信者の住所氏名を把握しているプロバイダー(発信者が契約しているプロバイダー)と、掲示板が入っているサーバーを持つプロバイダー(以下、書き込みプロバイダーといいます)とが異なるという点です。このような事態は、プロバイダー間で自由に情報の行き来ができるインターネットではむしろ当たり前のことなのですが、プロバイダー責任制限法4条1項が、「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は」、同項各号のいずれにも該当するときに限り、「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者」(開示関係役務提供者)に対して、発信者情報の開示を請求することができると定めていると、かなり制限的な文言で規定しているため、問題となりました。
 そして本判決は、法律の規定によると「開示関係役務提供者」とは、発信者が書き込みを行ったサーバーを保有するプロバイダーであり、経由プロバイダーは、「開示関係役務提供者」に当たらないという判断を示したのです。

 本判決の影響

 実際上、書き込みプロバイダーが発信者を特定するに足る情報を保持していることは、ほとんどありません。本件でも、原告は書き込みプロバイダーに対して情報開示を請求したところ、出てきたのは被告が配給したメールアドレスに止まったため、被告に対し開示請求を行ったものです。
 また、プロバイダー責任制限法施行当初より、同法4条1項は、プロバイダーの自主的な情報開示を期待した規定ではありません(なぜなら、プロバイダーとしては、おいそれと発信者情報を開示しては、電気通信事業法違反となったり、発信者から損害賠償請求を受ける可能性があるからです)。
 したがって、本判決のような解釈によると、本条により救済が図られるのは、発信者が自ら開設するウェブサイト上で名誉毀損的発信を行ったような場合に限られ、掲示板への書き込みによる被害に対しては、ほとんど効果を発揮できないことになるでしょう。このような結論は、立法担当者は全く予想していなかったようです(たとえば朝日新聞ニュース平成15年4月24日では、総務省担当者の「こうした法解釈は予想しておらず、今後の判例を注視したい」というコメントが載っています)。

 判例の展開

 本判決のような、プロバイダー責任制限法の適用を制限する解釈によると、インターネットの掲示板に名誉毀損の書き込みをした本人の責任を追及することは、事実上かなり困難となってきます。一方近時の裁判例では、掲示板の管理人に対し、書き込みの削除義務違反を理由とした損害賠償請求を認めるものがちらほらと現れてきました(平成14年6月22日東京地裁、平成15年6月25日東京地裁判決など)。インターネット上の掲示板による名誉毀損の救済としては、しばらくは、書き込み者本人を追及するよりも、掲示板管理人に対する責任追及の方が簡便ということになりそうです。または、名誉毀損罪(刑法230条)により刑事告訴を行って、捜査機関から令状に基づいて発信者情報を取得してもらうという方法を取ることも考えられるでしょうか(これは裏技に近い方法ですが)。
 ただし、このような現状がある意味で「いびつ」であることは明らかだと思います。書き込み者本人を放置しておいて、手近な管理人を標的にすることは自己責任の原則に矛盾するものですし、名誉毀損の書き込みも止まることはないでしょう。「インターネット掲示板を作った以上、内容は常に監視しておきなさい」と言わんばかりの運用では、管理人のなり手がいなくなり、インターネット上の情報の流通性は大きく阻害されてしまうでしょう。このような「いびつ」な状態を避けるための法律解釈や立法が待たれるところだと思います。

以 上

 
 
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