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第2回 「侵害警告への対処法について」
溝上法律特許事務所  溝上 哲也 (みぞがみ てつや)


1、侵害警告を受けるのはどんな場合か?

 知的財産権をめぐる紛争に関して、警告書が突然送られてくることがあります。警告書は、知的財産権を有する権利者が無断で技術や商標等を実施されたと判断した場合に、侵害行為の停止を要求するため、侵害者に対して送付される文書です。侵害の警告は、特に文書でしなければならないのではなく、最近では電子メールで行われる例も報道されていますが、通常は、内容証明郵便で送付することが行われています。

 侵害の警告は、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、不正競争防止法上の権利など、侵害者に差止請求権の行使が認められている場合に、その行使方法としてなされるものです。警告書で目的を達することができないときは、その後、訴訟や仮処分などの裁判手続が執られることになります。なお、実用新案権については、実用新案技術評価書を提示して警告することが、差止請求権行使の要件とされています(実用新案法第29条の2)。

 特許権については、差止請求権の行使以外に、出願公開に基づく補償金請求権の行使のために、特許出願に係る発明の内容を記載した書面により警告がなされることがあります。この場合、特許権の設定登録後の期間について請求できる損害賠償以外に、その警告後特許権の設定登録前に業としてその発明を実施した者に対し、その実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の補償金の支払を請求することができるとされています(特許法第65条)。

 これらの警告書がきたときには、相手方がさらに差止請求や損害賠償の訴訟を提起したり、差止の仮処分を申し立てる可能性があるので、まず弁護士や弁理士に相談することが必要ですが、一般的にどのような対応をとることとなるのかについて、以下に特許権侵害のケースで説明します。


2、侵害警告を受けたときは先ずどうすればよいか?
 
 特許権の侵害であるから製造販売を止めるようにとの警告書を受領した場合、先ず相手方が主張する特許権の内容を調査・確認し、その上で、自社製品の製造販売が侵害となるかについて、判断する必要があります。特許権の内容の調査・確認は、次のような点について、行います。

(1)権利者の確認

 特許権の行使ができるのは、特許権者と専用実施権者に限られていますので、警告者がこれらの者であるかどうか確認します。警告書に記載してある特許番号に基づいて、特許原簿の謄本を取り寄せ、これらの者が表示されているかを調査します。なお、特許原簿には通常実施権者が表示されていることもあり、通常実施権者が警告する例も見聞きしますが、通常実施権者が侵害警告を行うことは出来ません。

(2)権利の有効性の確認

 特許権は、設定の登録により発生し、その存続期間は、特許出願の日から20年とされているので、念のため、相手方の権利の存続期間が満了していないかどうか確認します。また、存続期間内であっても、特許権を維持するためには、毎年、特許料を支払う必要がありますので、特許料の不払によって権利が消滅していないかも確認します。これらの調査は、いずれも特許原簿の記載に基づいて行います。

(3)権利内容の確認

 警告書には、侵害されたという特許権の番号は表示されていても、権利内容の詳細までは記述されていませんので、警告書に記載してある特許番号や公告番号に基づいて特許公報を入手します。特許公報は、特許庁ホームページの特許電子図書館で閲覧・ダウンロードできるほか、発明協会などでも購入できます。特許公報には、「特許請求の範囲」「発明の詳細な説明」「図面」「要約書」などの項目がありますが、このうち、「特許請求の範囲」欄の記載が相手方の特許権の内容となります。

(4)自社製品との対比

 特許発明の技術的範囲は、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基いて定めなければならないとされていますので(特許法第70条1項)、上記の調査・確認の後に自社製品の構成と特許公報の「特許請求の範囲」欄の記載を対比して、相手方が主張するように本当に侵害と言えるかどうか検討することになります。その場合、明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面については、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈する際に考慮してもよいとされていますが、要約書の記載は、考慮してはならないとされています(特許法第70条2項3項)。また、上記の対比判断に際しては、特許公報には記載されていない出願経過書類での記述や出願当時の技術水準が前提となるので、これらの書類の取寄や出願前の公知例とか公知文献の調査をしておくことが望ましいと言えます。場合によっては、警告を発した権利者やその代理人に侵害となる理由を尋ねることもありますが、いずれにしても権利範囲の確定やその対比検討は、専門的な判断を要する微妙なことなので、弁護士や弁理士に相談することをお勧めします。


3、警告の内容について検討した後、どのような対応をとれば良いのですか?

(1)侵害していないと判断される場合

 上記のような調査・検討の結果、自社製品が相手方の特許の技術的範囲外であると判断される場合には、相手方に対し、その理由を述べた回答書を送付して、相手方の誤解を解き、無用な紛争を避けるようにします。相手方が回答書の説明を読んでも納得しないときには、通常は相手方の提訴や仮処分の申立を待って、対応することになりますが、出願経過書類の取寄や先行技術文献の調査やその検討などの応訴準備をしておくべきです。

(2)相手方特許に無効原因がある場合

 特許出願前に同じような内容が別の文献に記載されている場合や公知例の組合せにより極めて容易に発明できたような場合には相手方の特許権が成立した後でも、特許庁に権利者を相手方とする無効審判請求をして、特許権そのものを無効としてしまうことができます(特許法第123条)。特許を無効にすべき旨の審決が確定したときは、特許権は、初めから存在しなかったものとみなされますので(特許法第125条)、侵害警告に対しては、最も抜本的な解決方法となりますが、審理の結果、いったん認められた特許を無効とするには、それ相当の根拠が必要であり、逆の結論がでたときには、損害賠償の額が争っている期間の分だけ増えてしまうため、無効審判請求により無効となる可能性が高いかどうか十分に吟味する必要があります。

(3)無効原因がなく侵害していると判断される場合

 自社製品が相手方の特許の技術的範囲内であると判断される場合には、先使用権(特許法第79条)や職務発明(特許法第35条)などの抗弁事由があるときを除き、その製造販売を中止します。警告に対して反論が出来ないのであれば、回答書において侵害したことを謝罪し、今後の製造中止を申し出ることによって、損害賠償請求を事実上撤回してもらうか、できるだけ少ない額としてもらうよう交渉するしかありません。
 これまで侵害していたことは認めるが、どうしても製品の製造販売を継続したいと考える場合には、話し合いにより有償で実施許諾を受けるか、自社製品が技術的範囲外となるように設計変更するしかありません。
 なお、先使用権は、相手方の特許の内容を知らないで自社製品を開発し、特許出願の際現にこれを製造販売している場合などに認められる権利で、従業員がその職務に関して発明を行った場合と同様に、その企業は、その特許出願に係る特許権について通常実施権を有するとされています。


 
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